日本酒コラムVol.6。今回のテーマは、「新社会人のみなさんに知ってほしい綾花/杜氏・蔵元など酒造りの役職ついて調べてみた」
FoodGrooveJapan日本酒コラム担当、日本酒好きの小林舞依です。
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このコラムでは、日本全国にある1,400以上の酒蔵にバトンを渡す、酒蔵がおすすめする酒蔵のご紹介からできております。
「新社会人のみなさんに知ってほしい綾花/杜氏・蔵元など酒造りの役職ついて調べてみた」
今回お話をうかがったのは、福岡県久留米市にある「旭菊酒造(あさひきくしゅぞう)」原田頼和氏です。前回の「羽根田酒造」羽根田成矩氏と同じ30代で、燗酒仲間という繋がりもあります。ぜひ最後までお読みください!
火事にみまわれ、蔵が全焼。大学卒業後すぐに戻る決断を。
原田氏は東京農大で醸造学を学び、卒業後は酒業界とは別で社会人活動を目指そうと考えていました。しかし、大学4年の2010年5月、ご実家である旭菊酒造の仕込み蔵から貯蔵庫までを全焼する火事にみまわれてしまいます。いずれは帰ろうと思っていたそうですが「今帰らなくていつ帰る」と翌年卒業すぐに帰郷を決意します。
蔵元杜氏であり父親の原田憲明氏は、全焼した蔵を見て一度は廃業も考えたと言います。しかし、ほかの蔵元や地域のお客様から『やらんといかんよ』と背中を押され、一週間後には再建を公表。大工さんたちが年末年始を返上して建ててくれたお陰で、翌年1月には造り蔵が完成、1度も休まずに酒造りができたのだそうです。
また、火事のことを聞いた方がすぐに駆けつけ、人手不足で困っていた蔵人となり、酒造りに携わってくれたというのです。
2011年4月、原田氏として1年目の酒造り。「ほかの酒造メーカーで修行してから蔵に戻る選択肢もありましたが、一から酒造りに携われることもないと思うので、貴重な経験だと思っています」と原田氏は言います。
お気づきの方もいるかもしれませんが、この火事がもし翌年だったら、こんなに早く再建できませんでした。東日本大震災で木材不足や建築関係者の人手不足があり、再建までに数年かかっていたことでしょう。
「旭菊」の由来
明治33年(西暦1900年)、現社長の曽祖父にあたる原田勝次氏がそれまでの小さな醤油屋を止め酒造業を始めました。 酒名は、朝日のように勢いのある、切れの良い酒を願って「旭菊」と命名。
蔵のある福岡県久留米市三潴(みずま)町がある筑後地方は、広大な筑紫平野と、大分の山々を源流とする一級河川・筑後川を有し、古くから米作りが盛んに行われていました。
九州といえば焼酎のイメージがありますが、北部九州は今でも清酒圏であり福岡を代表する酒蔵が数多くあります。国税庁が発行している酒蔵マップで調べたところ、福岡県内の蔵数は78ヶ所、主要品目が清酒の蔵は46蔵もありました。
料理をメインに。食中酒にこだわった酒造り。
旭菊酒造では、食事に合う酒を目指した酒造りを意識しています。燗をつけると炊きたてのご飯のように味に膨らみが出て、米本来の香りが広がります。
「みなさん、お米って炊いて温かいまま食べますよね?それと同じで、酒も温かい飲み方をおすすめしています。」と原田氏。
あくまでメインは食事で、食事の合間に酒を飲み、また食事がすすむ、という飲み方が好ましいと話します。
新社会人におすすめ!春らしい味わい「綾花」
綾花(あやか)という可愛らしい酒銘の通り、優しい香りと繊細でやわらかな旨味が口の中で花開きます。旭菊酒造の中では「はじまりの酒」。まだ自分に合った酒に出逢っていない方におすすめです。
福岡県にて契約栽培をしている山田錦だけで醸したお酒です。9号系酵母を用いて、瓶詰め後に貯蔵し丁寧に熟成。するするといつの間にか杯が進んでしまう、食事に寄り添ってくれる、そんなお酒です。旭菊酒造のお酒の中でもファンが多い1本。冷やでも燗でもおいしいですが、原田氏のおすすめは「常温」。
この時期は、あさりのすまし汁と共に、素材の良さを感じてほしいと話す原田氏。先輩社員の皆さん、ぜひ新社会人の皆さんにおいしいお酒を教えてあげましょう。
舌がこえてきた日本酒マニアには「大地」がおすすめ
大地(だいち)はその名前の通り、そこに当たり前に存在し寄り添ってくれるお酒です。どの料理にも相性抜群で、原田氏でも「説明しずらい」という究極の“脇役”。
福岡県糸島地区で契約栽培した無農薬・山田錦だけで醸したお酒です。福岡県は山田錦の出荷量で全国第3位(第1位兵庫県、第2位岡山県)。糸島市二丈町は、福岡県随一の山田錦の生産地として有名です。酒販店さんと一緒に6月の田植え、夏の草取りのお手伝いをしながら無農薬米のお手伝いをしています。
※農林水産省平成26年産米の農産物検査結果・旭菊酒造HPより参照
販売店を限定されているお酒ですので、見付けたら絶対飲みたいですね。
《今月の学びのコーナー》
日本酒造りの役職とは?
杜氏や蔵元など、酒造りには欠かせない「役職」があります。これまでもコラム内に何度も登場している用語ですが、おさらいしてみたいと思います。
・蔵元(くらもと)
蔵の社長、オーナー。
蔵元みずから杜氏になる場合もあり、そのような場合は「蔵元杜氏(くらもととうじ)」と呼ばれる。
・杜氏(とうじ・とじ)
酒造りの最高責任者。
基本的に、ひとつの酒蔵にはひとりの杜氏しかいない。杜氏の語源は「刀自」、”外で働く男”を意味する「刀禰(とね)」に対する、家事一般を取り仕切る女性の呼称でした。酒蔵が男性社会に移り変わり、肩書として変化したと言われている。
・頭(かしら)
杜氏の補佐、蔵人の指揮を取る。ヘッドコーチのような存在。
・麹師(こうじし)
代師(だいし)とも呼ばれる。「代司」という漢字が当てられることもある。ピッチングコーチのような存在。
杜氏、頭、麴師を「三役(さんやく)」と呼ぶ。
・酛廻り(もとまわり)
酛師(もとし)とも呼ばれる。醪(もろみ)、酒母(しゅぼ)の世話をする。麹造りと並んで、酒造りの花形ともいえる仕事。バッティングコーチのような存在。
・相麹(あいこうじ)
麹師の助手。
・室の子(むろのこ)
酛廻りの助手。
・泡守(あわもり)
泡番(あわばん)とも呼ばれる。昔は醪(もろみ)造りの最中に、醗酵で泡が盛り上がってきて、酒が樽から溢れ出ることがあった。徹夜でそれを見張る係が必要だったが、近年では泡なし酵母が開発され、その心配がなくなり、全くと言ってよいほど見られない。
・船屋、船頭(せんどう)
上槽工程の責任者。搾りに使う道具が「槽(ふね)」と呼ばれるためこの名になった。
・炭屋(すみや)
濾過を担当する。昔は活性炭濾過が盛んに行なわれていたので、少量の炭で効率よく濾過を行う専門家が必要であった。
・釜屋(かまや)
酒米を蒸す担当。甑(こしき)の蒸気をいかに上手く扱うかにかかっている。
・精米屋
原料である酒米の精米担当。
・追い廻し(おいまわし)、道具廻し
酒造り道具の管理や水の運搬など。仕事に追廻されて忙しく立ち働く者という意。多くは新入りの年少者で、蔵人はみな一度はこの階級を経験し、蔵の仕事を身につけていく仕組みになっている。
各部門の責任者の下で実際に作業をする人を以下のように呼ぶ。
・上人(じょうびと)
桶洗い、水洗い、水汲み、道具準備担当。
・中人(ちゅうびと)
水汲み、米洗い、蒸米運び、洗いもの担当。
・下人(したびと)
洗いもの、米洗い、水汲み、泡番など。
・蔵人(くろうど、くらびと)
一般的に、杜氏以外の酒職人を指す。冬期のみ酒造りに関わる場合もある。営業や事務を担当する酒造会社の社員は蔵人と呼ばない。
いかがでしょうか?
人間国宝級の名杜氏も、出発点は大方この下人であったそう。蔵や流派によって呼び方がちがう場合もあり、独自の変化を遂げている様子がうかがえます。
酒蔵のバトン
このコラムでは、日本全国の酒蔵をつないで酒蔵がおすすめする酒蔵をご紹介してまいります。
次回、このバトンを受け取ってくださるのは、長崎県対馬島に唯一存在するという河内酒造合名会社様。名酒「白嶽(しらたけ)」「やまねこ」など気になるお酒がたくさん!次回の取材も楽しみです!
〈インタビューご協力〉
旭菊酒造株式会社
福岡県久留米市三潴町壱町原403
取材:小林舞依