Skip to main content

【日本酒コラム】Vol.8「梅雨時期に楽しみたい、生酛造りにこだわった飛鸞・青天」長崎県・森酒造場

Published on
2022年6月23日
fgj@admin
fgj@admin

日本酒コラム担当、日本酒好きの小林舞依です。今回で日本酒コラムは8投稿目となります。このコラムでは、日本全国にある1,400以上の酒蔵にバトンを渡す、酒蔵がおすすめする酒蔵のご紹介からできております。

今回お話をうかがったのは、長崎県平戸(ひらど)にある「森酒造場」5代目・専務兼杜氏の森 雄太郎氏です。

前回の「河内酒造」伊藤氏から同じ長崎県内での酒蔵をぜひ紹介したいとのことで、30代で杜氏として活躍する森氏へとバトンが渡されました。ぜひ最後までお読みください!

◼️杜氏として5回目の酒造り

森氏は高校卒業後、酒造りの技術を学ぶため広島大学へと進みます。大学卒業後すぐに蔵に戻る選択肢もあったそうですが、教授のすすめで宮城県の浦霞醸造元である株式会社佐浦へ入社し、酒造りの現場を学んだといいます。

森氏が中学生のときから杜氏不在のまま社員たちだけで地元の普通酒を造っていた森酒造場。佐浦で3年の勤務を経て、27歳で杜氏となり今期で5回目の酒造り。

森酒造場のSNSを拝見すると蔵の断捨離にも力を入れ、蔵の外壁塗装もし、蔵全体としての変化の様子が伺えます。毎年テーマを決めて酒造りにも変化を取り入れているそうですが、今期は生酛造り(きもとづくり)に挑戦されました。

冬の時期は蔵にこもって酒造りに集中されますが、イベントなどで登壇することも多く、お酒を飲んでいただいた方に喜んでもらえることがモチベーションとなり、更なる探究心をかき立てられると話します。

◼️生酛造りにかける想い

「安全な酒造りをしたい」と話す森氏。その起源には佐浦での酒造りが影響しているそうです。佐浦は宮城県の中でも純米酒に力を入れている酒蔵。大事な人に飲んでほしいからこそ、素材にこだわり、製法にもこだわりたいと話します。

平戸産の米を使った酒造りにも挑戦。平戸でつくられている米は酒米ではなく食用米で、日本酒造りには不向きと言われています。同じ米でも食用米のほうが粘り気があるため、手や酒造りの際に使う道具にくっついてしまうのだとか。それでもその土地のものにこだわることで、長年出せていなかった森酒造場の個性を出し、地域に愛されながら広く知っていただきたいと言います。

《今月の学びのコーナー》

◼️生酛造りとは

日本酒コラムをご覧いただいている方には馴染み深くなってきたであろう日本酒の専門用語シリーズ。今回はこの「生酛造り」について触れていきます。

「生酛造り」とは何か?わかりやすく言うと、自然の力を活用した、昔ながらの日本酒の造り方を言います。日本酒の造り方には大きく分けて3つの造り方があります。まずは順を追って説明していきます。

ー 酛づくり

蒸した米と水に、麹・酵母・乳酸を加えたものを、酒母(しゅぼ)と言いますが、酒母=酛(もと)とも呼びます。この酒母が日本酒の原型である醪(もろみ)のベースとなっていきます。

ー 乳酸を手作業で作る

酵母とともに重要なのが乳酸です。乳酸菌から生まれる乳酸には酒にとって不要な雑菌を死滅させる働きがあります。生酛造りではこの乳酸も手作業で造ります。

米と米麹を、櫂(かい)という道具ですり潰してドロドロにする「山卸し(やまおろし)」という作業を行い、天然の乳酸菌を育成して乳酸を作り、アルコール発酵を促します。また「蔵付き・家付き」と呼ばれる、醸造場に長年住みついてきた酵母を取り込むため、日本酒にその蔵の独自の味わいが生まれると言われています。

ー リスクがともなう生酛造り

生酛造りは有害な雑菌が増えることで、酒自体が腐ってしまうケースが少なくありません。時間をかけて製造した酒が腐ってしまえば、いちから造り直すことになります。当時の蔵人たちは大きな労力をかけてお酒を造っていたわけです。日本酒造りに正解はなく、それぞれの蔵元や杜氏が自らの信念を貫きつつ、より良い日本酒の製造を目指しているのが分かりますね。

「生酛」・・・天然の乳酸を約2週間、その後の酵母の発酵期間で約2週間、トータル約1ヶ月かかる製法。江戸時代から明治時代中期まで主流だった造り方。

「山廃酛」・・・山卸しをせず、麹の力によって米のでんぷんが糖に変わり、糖が酵母に働きかけることでアルコール発酵を促す造り方。

「速醸酛」・・・人工の乳酸を添加しアルコール発酵を促す、明治時代より今に至るまで主流となっている造り方。

◼️代表銘柄「飛鸞(ひらん)」の由来

平戸の地名は、海より眺めた平戸の島影が神霊の精が鳥と化した鸞(らん)が飛び立つ姿に似ていたことから「飛鸞島」と名付けられました。転じて「平戸」となったと言われ、そのことにちなんで代表銘柄「飛鸞」と命名されています。

1895年(明治28年)「小松屋」の屋号で創業。清酒「菊の露」、焼酎「仙滴」の銘柄で親しまれていましたが、時代の変遷と共に昭和30年代に法人化し、小松屋の屋号から有限会社 森酒造場へ、「菊の露」から「豊年」そして「飛鸞」へとメインブランドも変わっていきました。

飛鸞は読みづらいため、ロゴにもこだわったと森氏は言います。「パッとみて、なんとなく見たことがあると覚えていただけたら嬉しいです」。ロゴマークに添えてある羽は、鳳凰の次に優美な鸞の羽。女性にも好まれそうなデザインですね。

◼️この季節に飲みたいクリアな味わいの「飛鸞・青天(せいてん)」

生酛造りでこだわった「青天」は、ボトルからも伝わる青く澄み切ったクリアな味わい。平戸の情景を思い浮かぶような爽やかさを感じます。低アルコールで13度なので日本酒ビギナーの方にも飲みやすい仕上がり。森氏の名前にも使われている「雄」の字が入った、「雄町(おまち)」という米を80%使用。クリアな味わいの中にも深みと旨みを感じる一本です。

◼️イチオシ!長崎の食用米を使った「飛鸞・にこまる」

「長崎県の特色を出した酒を造りたい」という思いからつくられた一本です。「にこまる」とは長崎県で作られている奨励品種の食用米。穏やかな香りの食中酒です。にこまるの名前の由来でもある「食べたらニコっと笑顔になるお米」と同じように飲んで自然と笑顔になってもらいたいという願いも込めているのだそう。冷やで飲むのが森氏のおすすめです。

◼️女性におすすめ「飛鸞・にこまるQween」

食用米の可能性を追求した一本。定番酒である「にこまる」とはまた異なり、Queenの名に相応しい上品な香りと甘味、そしてわずかなガス感と、繊細な味わいを兼ね備えたお酒です。

◼️酒蔵のバトン

このコラムでは、日本全国の酒蔵をつないで酒蔵がおすすめする酒蔵をご紹介してまいります。

次回、このバトンを受け取ってくださるのは、長崎県南島原市「吉田屋」様。次回もますます楽しみです!

東京に森氏がいらっしゃった際に撮った3ショット。奥がFGJ代表の鈴木です。

〈インタビューご協力〉

有限会社森醸造場

長崎県平戸市新町31-2

専務・杜氏 森雄太郎

https://mori-shuzou.jp

取材:

FOOD GROOVE JAPAN

日本酒コラム担当 小林舞依