酒蔵インタビューVol.12 福島県・仁井田本家 蔵元 18代目 仁井田穏彦氏
日本酒コラム担当、日本酒好きの小林舞依です。今回で日本酒コラムは12投稿目となります。このコラムでは、日本全国にある1,400以上の酒蔵にバトンを渡す、酒蔵がおすすめする酒蔵のご紹介からできております。
今回お話をうかがったのは、福島県郡山市にある「仁井田本家」18代目蔵元杜氏の仁井田穏彦(にいだやすひこ)氏です。
仁井田氏をご紹介いただいたのは、千葉県いすみ市の「木戸泉酒造」5代目 荘司勇人氏です。
前回は蔵人の小薗江氏と蔵元の荘司氏のお2人からうかがった古酒のお話。時代を“受け継ぐ”お話から、今回は環境を“受け継ぐ”お話を聞かせていただきました。
◼️300年の歴史、18代目
穏彦氏は2010年から歴代初の蔵元杜氏となります。
仁井田本家は創業1711(正徳元)年。「300年以上同じ場所で酒造りを続けてこられたのは、この地が素晴らしいということ。仁井田の酒とともに、米、田んぼ、山、水…この環境を次世代に引き継がなければならない」と語ります。
杜氏として最初の仕込みを終えて迎えた2011年は、創業300周年の節目。蔵のすべての酒を、無農薬・無化学肥料の米を使用する「自然酒」へと切り替える準備が整いました。
◼️東日本大震災、福島原発事故
日本で初となる自然米使用の酒蔵「自然派宣言」を大々的に発表。反響があり業績が上向きなり始めたときに東日本大震災、そして福島第一原発事故が発生します。
風評の影響は、日本酒などの加工品よりも米や野菜の方が深刻でした。穏彦氏はこうした農家に酒米をつくってもらい、仕入れることで少しでも手助けしたいと考えました。その結果、県内の農家の輪が広がっていき、今では仁井田本家の酒造りを支えているといいます。
◼️田んぼの学校
企業目標にも掲げている「日本の田んぼを守る酒蔵になる」。
田植え〜稲刈りまで体験できる「田んぼの学校」は人気イベント。春の田植え、夏は雑草取り、秋には稲刈りと、米づくりから酒ができるまでを体験できるこのイベントは17期になります。
新型コロナウイルスの影響で開催は3年ぶりだったそうですが、県内や首都圏などから参加者が集まりました。コロナ禍前はインバウンドの参加者も多く、現在は子どもに農作業を体験させたいと親子の参加が多いそうです。
100年後に残していく地球環境をともに考える仲間として、50回参加された方には「名誉蔵元」という称号がもらえる特典もうれしい。すでに3名もの名誉蔵元がいるといいます。参加回数ごとにもらえるTシャツや前掛けなども人気です。
◼️ブランディングチームのちから
仁井田本家の人気を語るうえで「かわいさ」は欠かせません。
社員とデザイナーとともに結集されたブランディングチームは、20〜30代の若いメンバーで構成されています。
日本酒のラベルは習字のような渋いデザインをイメージする方も多いと思いますが、若い世代からすると近寄りがたく、もっと上の世代の人が飲むものと連想させてしまう。5年前にリニューアルした「にいだしぜんしゅ」のラベルはポップな色使いと優しい文字のフォントが印象的。
ロゴのカエルは「おだやかえる」といって、自然環境の象徴である蛙の絵柄を、家紋の下がり藤にあしらったもの。おかみと一緒に写る穏彦氏の表情にも注目です。
◼️本数限定「秋あがり」
生酛造り、酵母無添加(蔵付き酵母)の、秋あがりができあがりました。
春先に火入れした新酒をタンク貯蔵し、蔵でひと夏を越して、外気と貯蔵庫の中の温度が同じ位になった頃を見計らい、ほど良く熟成したしぜんしゅを生詰でお届けします。
今年は特に味が乗っていて、まろやかなお米の甘みと旨みが絶品。カルボナーラや豚の角煮など濃厚なお料理との相性が抜群と穏彦氏。
にいだのチーズラスクとの相性も良さそうです。
◼️10月発売「ぐらんくりゅ」
穏彦氏のおすすめの一本は「ぐらんくりゅ」。
先々代16代の植えた自社山の杉材で木桶を造り、その木桶で17代の考案した「しぜんしゅ」を、自社田の自然栽培米、蔵の天然水、蔵の微生物のみで醸しました。
グランクリュとは、ワインの特級畑のこと。酒造りの技術を次の世代に引き継いでいって、田んぼも引き継いで、最終的にはフランスの特級畑みたいにしたい。という想いが込められています。
2022年は奇しくも3月11日に上槽。
イカや白身魚のお刺身や、これからの季節はおでんの出汁を味わいながら、飲んでみたい一本です。
◼️サスティナブルな酒づくり
仁井田氏のお話をうかがっていて、随分前からサスティナブルなSDGsにそった考え方をお持ちなのですね、とたずねました。
SDGsとは「Sustainable Development Goals」を略したもので、日本語では「持続可能な開発目標」と呼ぶ、国際社会共通の目標です。
限定60本で生産された「ピーターアイビー × ぐらんくりゅ」はまさにサスティナブル。
ピーターアイビーとは富山県に拠点を置く米国人ガラス作家で、蛍光灯のリサイクルガラスを再利用して作られた、シンプルな硝子瓶に「にいだのぐらんくりゅ」を詰めました。この瓶は、蔵で量り売りのお酒を買い求めるときの「通い瓶」としてお使いいただけます。
◼️取材後記
今回は、自然米、田んぼの学校、サスティナブルと取り上げたい内容が豊富で「SAKE STUDY」を割愛しました。
穏彦氏の取り組みは国内だけにとどまらず、海外や、各メーカーとのコラボも精力的に取り組んでいます。スキーやテニス、現在ではゴルフも堪能とのことでスポーツマンで多趣味な穏彦氏。今後の活動にも注目です。
このコラムでは、日本全国の酒蔵をつないで酒蔵がおすすめする酒蔵をご紹介してまいります。
次回、このバトンを受け取ってくださるのは、愛知県設楽町の関谷醸造 株式会社です。次回も楽しみです!
〈インタビューご協力〉
有限会社 仁井田本家
18代目蔵元 仁井田穏彦
福島県郡山市田村町金沢字高屋敷139番地
取材:
FOOD GROOVE JAPAN
日本酒コラム担当 小林舞依