4投稿目となる今回は、埼玉県蓮田市にある「神亀酒造(しんかめしゅぞう)」8代目の小川原貴夫(おがわはらたかお)氏にお話を伺いました。
前回の投稿では京都府伊根町の向井酒造様に寒い時期にぴったりの熱燗・ぬる燗の楽しみ方、そして化学肥料や農薬を使わない米づくりについて教えていただきました。
このコラムでは、日本全国にある1,400以上の酒蔵にバトンを渡す、酒蔵がおすすめする酒蔵のご紹介からできております。
向井酒造14代目の向井氏はかつて神亀酒造で修行されており、その真髄を継承しながら酒づくりに取り組んでいる「通称・神亀チルドレン」。熱燗のお話をしたからには、ぜひ神亀酒造をご紹介したい!とのことで、酒づくり真っ只中の1月中旬にお時間を作っていただいて取材となりました。
■原点に帰るとき
神亀酒造は江戸末期の嘉永元年(1848年)の創業で170余年の歴史を誇ります。当時の屋号は「伊勢屋本店」でした。「神亀」とは、かつて蔵の裏手にあった天神池に住むという「神の使いの亀」にちなんでつけられたもの。
今でこそ純米酒「神亀」の名は日本酒業界で広く知られていますが、その道のりは決して平坦なものではなかったようです。質より量が重視されていた高度経済成長時代の昭和42年(1967年)、純米酒という言葉すらなかった頃に早くも純米酒づくりに着手。苦難の連続を乗り越え、昭和62年(1987年)には全国で初めて、仕込む酒のすべてを純米酒に転換し、戦後初の全量純米蔵になりました。
■酒屋から酒蔵へ婿入り
その8代目として酒蔵を率いるのが、代表取締役の小川原貴夫氏。都内にある実家の酒屋「ニシザワ酒店」の跡取り息子に生まれ、高校を卒業して実家を手伝っていたとき、先代の小川原良征氏に出逢ったそう。
7代目の純米酒に対する想い、何より純米酒の美味しさに惹かれ、酒屋を純米酒専門にしていくことを決意したといいます。お酒の仕入れで神亀酒造を頻繁に訪れ、繋がりを深めていく中で先代から提案を受け2013年に入社。
冷蔵庫が一家に1台あるのが当たり前になり、日本酒を冷やして飲むことが多くなりましたが、日本酒は本来あたためて(燗酒にして)飲むもの。「質より量から量から質へ時代が変わっていく、原点に帰るとき」と小川原氏。
「熟成させた純米酒をお燗で」をテーマに燗酒の魅力や日本酒のあり方を次の世代へ伝えていくことを目標に、日々その魅力を発信されています。
■純米酒とは
純米酒は醸造アルコールを加えず、米・米麹(こめこうじ)・水だけでつくられます。
日本酒はこの醸造アルコールを加えてつくったものと、加えずにつくったものの2つに分かれます。醸造アルコールは主にサトウキビを原料として発酵させた純度の高いアルコールのことを指します。
醸造アルコールが添加されている日本酒がなぜできたかというと、江戸時代に産業として酒づくりが盛んになった頃に、カビなどによる腐敗を防ぐためだったという説が有力です。その後、戦後の米不足で三倍増醸酒という酒が生まれました。
純米酒とはこの醸造アルコールを加えていない「純米系」と呼ばれ、「純米大吟醸酒」「純米吟醸酒」「特別純米酒」「純米酒」の4つに分かれています。
■日本酒はお燗で飲んでほしい!
2021年9月に神亀酒造が監修し、小泉成器株式会社開発のもとクラウドファンディング「Makuake」で家庭向けの酒燗器「かんまかせ」を販売。公開初日に目標を達成、11月終了時点で
の達成率は14700%!
12月24日より一般販売を開始すると早くも5,500台の販売を記録しています。
温度に敏感な純米大吟醸でも簡単に、誰でも燗づけができる!プロの技をご家庭でも味わえる!キッチンに行かなくてもテーブルの上でできるのがいい!5〜6分で燗酒が楽しめる!など、多数の好評の声が。
なぜ燗酒がいいのか?
“一般的にアルコールは体温に近い温度で吸収されると言われています。冷たいお酒の場合、体温に近い温度まで温められてから吸収されますので、身体への負担も掛かりますし、酔いを感じるまで時間が掛かるので、飲み過ぎてしまうこともあります。燗酒なら時間差が少なく酔いを感じられますので、身体への負担も少なく、適度に飲酒できます。
また、日本酒には温度を上げると開いてくる旨味があり、冷酒を飲んでいては気付かない美味しさに出会うことが出来ます。個性の豊かな日本酒それぞれの最適な温度を探す楽しさもあります。日本酒は燗をつけることで世界に誇るお酒になるのです。“(Makuakeより一部抜粋)
かんまかせの燗をつける方式は「湯煎式」。
電子レンジでの燗はムラが出来てしまって美味しくない。鍋で燗をつけるには温度調整が難しい。手軽でかつ本格的な燗をつけたい。こんな不満を取り除いてくれるかんまかせ。湯煎で全体的にゆっくりと温め、味を損なうことなく旨味を引き出します。また、5段階の自動温度調節で、誰でも簡単にお好みの燗をつけることができます。
■日本酒の温度表現
前回に続いてあたたかい日本酒の飲み方について触れてきましたので、日本酒の温度表現についても覚えておきましょう!
55~60℃ 飛び切り燗(とびきりかん)
50℃ 熱燗(あつかん)
45℃ 上燗(じょうかん)
40℃ ぬる燗(ぬるかん)
35℃ 人肌燗(ひとはだかん)
30℃ 日向燗(ひなたかん)
20℃前後 冷や(ひや)
15℃ 涼冷え(すずびえ)
10℃ 花冷え(はなびえ)
5℃ 雪冷え(ゆきびえ)
0℃ みぞれ酒
フグなどの魚のひれを浸して飲む、ひれ酒には80℃を設定して、熱々を楽しんでください。
■神亀酒造のこの冬のイチオシ
この質問をしましたら、すかさず「全部ですね…」とおっしゃる小川原氏、さすが元酒屋、販売上手です。笑
その中でもオススメなのが、3年以上熟成させた「ひこ孫」大吟醸。ピュアな味わいが楽しめる55〜60℃で。
そして、この冬すでに完売してしまったという幻のお酒もご紹介いただきました。
13年間マイナス10℃の環境で熟成させた氷温長期貯蔵酒「神亀」純米大吟醸。神亀酒造としては初めて200本限定で12月に販売し即完売。オーケストラを聴いているようなやわらかな余韻を感じる一本とのこと。飲みたかったです…。
■ぜひ平杯で、舌に入る角度も楽しんでせっかく美味しく燗づけしたお酒ですから、飲む杯(さかずき)にもこだわりたいもの。
日本酒の歴史的には「平杯(ひらはい)」で飲むのが一般的でした。こぼしやすいなどの理由から、最近ではぐい呑みの方が身近に感じますが、ぐい飲みで飲むときの舌に入る角度があまく、味にも顕著にあらわれるそうなのです…!
また、徳利(とっくり)で燗をつける場合、純米は備前焼、吟醸以上は白磁がオススメ。これは徳利に使われている土のミネラルが影響するものなのか…、小川原氏こだわりの飲み方も奥が深そうです。ここはまたの機会に取材させていただきます!
冷酒に比べて、さまざまな形・素材の徳利やお猪口がありますから、酒器を変えて飲み比べるのも楽しそうですね!
■酒蔵のバトン
このコラムでは、日本全国の酒蔵をつないで酒蔵がおすすめする酒蔵をご紹介してまいります。
次回、このバトンを受け取ってくださるのは、山形県にある羽根田酒造様。「羽前白梅(うぜんしらうめ)」は東北出身の私にとっては馴染みのある日本酒なのでますます次回の取材も楽しみです!!
〈インタビューご協力〉
神亀酒造株式会社 8代目 小川原貴夫様
https://shinkame.co.jp/
[取材・文:小林舞依、 FGJ広報:大内]