雪国の食を支えた伝統野菜から、生きる知恵を学ぶ~第5回在来種の会イベントレポート

FOOD GROOVE JAPANでは月に1回、在来種や伝統野菜を食べながら学ぶ「在来種の会」を開催しています。案内人は豊洲の青果卸をしながら、伝統野菜の保存活動にも取り組んでいる、野菜未來株式会社の塩田勝良さん。

塩田勝良さん

今回のテーマは「雪国の食を支えた伝統野菜」です。

「雪国では冬の間、積雪により通常の農業ができなくなってしまいます。流通が行き渡っていない当時、それは死活問題。冬に何とか食料を得るために知恵を絞ってきたのです。

一つは、保存食に加工すること。例えば、東北地方で作られる凍み大根は、茹でた大根を干し、 夜に凍って朝に溶けるのを繰り返すことで水分を抜き、味を凝縮させていきます。春に採れる蕨は重曹で毒を抜いて塩漬けにし、食べるときに塩抜きをします。雪どけ水をたっぷり含んだ山菜はデトックス効果があり、それを塩蔵という塩漬けにして保存することで、冬場の貴重な栄養源にしていました。」(塩田さん)

前菜三品。塩蔵わらびの肉巻き、小野川豆もやしとひき肉の豆腐ゼリー寄せ、庄内あさつきのネギトロ

もう一つの工夫が、雪下野菜です。通常、野菜は一定の温度を下回ると凍ってしまいますが、雪下野菜は糖度を高めることで凍結を防ぎ、自らを守ります。

山形県米沢市で栽培される雪菜は、上杉鷹山ゆかりの「遠山かぶ」のとうを食していたのが元で、草丈60〜80cmに成長したアブラナ科の葉をまとめ、雪の中でとう(花茎)を出させます。 ”とう”は、凍って腐った外葉を養分にして成長するのです。収穫時には、2mの雪をかき分けて株を取り出し、外葉を除いて新芽の部分だけを食べます。

ヨーロッパ野菜のアンディーヴに似たほろ苦さがありますが、湯と水に交互に浸して発酵させると、苦味が辛味に変わり、シャキシャキとした食感が特徴の「ふすべ漬け」になります。

ふわとろの卵にシャキシャキとした雪菜のふすべ漬けが隠れています。優しい辛みが心地よいアクセントに。

庄内あさつきも、雪の中で伸びる力強い植物です。ネギの仲間ですが、雪の中で育つため柔らかく甘みがあります。その中でも、新芽だけを選んで収穫したものが「ひろっこ」です。雪の中を掘って小さな新芽を拾い集めるため非常に手間がかかる高級品ですが、地元や野菜マニアの間で愛されています。

ひろっこの和風ペペロンチーノ。あさつきの甘みと香りがオイルで引き出され、参加者からの評価も高かった一品。

また、温泉熱を利用した農業が行われている地域もあります。温泉が流れる小川の上に小屋を建て、秋に収穫した大豆を蒔いて豆もやしを育てます。通常のもやしよりも生育期間が長く、細くて長いのが特徴です。もともと、大火の後の復興事業として始まったもやし栽培。一時は75世帯すべてがもやし農家でしたが、現在は2軒のみとなりました。

小野川もやし生産者の鈴木巌さん
小野川もやし、庄内浅葱、桜エビのかき揚げ

宮城県仙台市の岩切地区は、かつて稲作が盛んな地域でしたが、地下水位が高く、冬場にネギが根腐れを起こしてしまいます。そこで、農家は植えたネギを一度引き抜き、斜めに植え替える方法を編み出しました。ネギは光合成のために太陽に向かって伸びるため、次第に曲がるのですが、このまがり具合を調整するのも農家の技術です。

ローストビーフと凍み大根のミルフィーユ、まがりねぎのグリル
〆は山菜のパエリア。添えられた角川かぶが絶妙にマッチ

 

イベントに登場した野菜は、どれも手間暇がかけられたものばかりです。流通が発達した今、それは決して合理的とは言えないかもしれません。しかし、そのひとつひとつの手間は、長い冬に苦しんだ雪国の人々の努力と知恵の結晶であることを学びました。

FOOD GROOVE JAPANでは、今後もこのような食材にスポットを当て、応援していきます。

次回の在来種の会は4月12日、テーマは「いろいろな豆」。日程が近くなりましたら改めてご案内いたしますので、どうぞお楽しみに!