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【日本酒コラム】Vol.5「春だ!羽前白梅ちろりと山菜をいただこう。/日本酒の仕込み水について学びました」山形県・羽根田酒造

Published on
2022年4月4日
fgj@admin
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今回のテーマは、「春だ!羽前白梅ちろりと山菜をいただこう。/日本酒の仕込み水について学びました」


FGJ通信日本酒担当、日本酒好きの小林舞依です。
今回で日本酒コラムは5投稿目となります。前回の投稿では、埼玉県蓮田市の新亀酒造様に自宅でも気軽に楽しめるお燗のキホンと、純米酒の魅力について教えていただきました。


純米酒ファン神亀酒造ファンの皆様が見てくださったのか…、日本酒コラムの認知度が上がってきたのか…、閲覧数がぐんっ!と伸びてくれまして嬉しく感じております。
今回も素敵な酒蔵のお話を伺って参りましたのでぜひ最後までお読みください!


このコラムでは、日本全国にある1,400以上の酒蔵にバトンを渡す、酒蔵がおすすめする酒蔵の
ご紹介からできております。


今回お話をうかがったのは、山形県鶴岡市にある「羽根田酒造(はねだしゅぞう)」羽根田成矩(しげのり)氏です。
羽根田氏も神亀酒造から全量純米酒の教えを受け継いだ神亀チルドレンのおひとり。日本最古の酒蔵トップ10に入る羽根田酒造に新しい風を吹かせる、平成生まれの杜氏です。


◼️ 日本最古トップ10に入る歴史ある酒蔵の若き杜氏
出羽三山を臨み、酒造家が軒を連ねる一角に羽根田酒造はあります。蔵のある山形県鶴岡市大山は「酒造りのまち」として450年以上の歴史があり、現在4つの蔵元があります。その中で最古の酒蔵が羽根田酒造です。
31歳の羽根田氏は東京農大の卒業生。もともとは英語や音楽に関わる大学への進学を考えていたそうですが、高校時代の先生方からの後押しもあり農大への進学を決められたそう。大学卒業後は別業界への就職も考えたそうなのですが、研究室の教授からの後押しと、タイミングよく社長(お父様)からの連絡もあり、卒業後すぐに蔵へ戻ることを決められたのだそう。
出逢った方々に“軌道修正”されてきたと話す羽根田氏。この環境に感謝しながら、地元に向き合った酒造りを通して恩返ししていきたいと話されていました。


◼️3月は反省会の時期
ちょうど取材させていただいた3月中旬は、新しいお酒の出荷時期。
今回は新しい山廃仕込みを仕込んだそうで、そのその出来を見るのもこの季節。「うちの山廃を酒質として『よく綺麗にまとまっている』と言われるのですが、個人的にもっとガツンとした酸味のある酒も好きなので、ここ数年、他の蔵の山廃の仕込みを色々教えてもらって徐々にはっきりとした酸味を出す事ができるようになりました。

今回は酸味を纏う甘さを出すために工夫し、強すぎない優しい甘みを残し、酸味との両立を目指しました。」
コロナ禍2020年からの出荷量減を経て、仕込み量を減らしたり、効率を考え蔵のレイアウトを変えたり、時間的にも余裕をあけた酒造りにするなど工夫を凝らしているそうです。
羽根田酒造の酒造りでは2年熟成させるため「仕込み水(しこみみず)」には先祖代々受け継がれてきた硬めの井戸水を多めにすることで、熟成のピークを遅めにし飲み頃を調整しているとのこと。
毎年試行錯誤しながら酒造りに向き合っているのが伝わります。

◼️仕込み水とは
羽根田氏のお話を聞いて「仕込み水」について興味が湧いたので調べてみました。
日本酒造りには良い水と米が欠かせません。地域、酒蔵、銘柄によって使われる水や米は異なりますが、特に水は日本酒の80%を占めている成分なので、どんな水を使うかで仕上がりが大きく変わるのだそう。
今回は、仕込みの際にどんな水が使われているのか、また水の硬度によってどんな違いがあるのかなど、日本酒造りと水の関係について学んでいきましょう。


日本酒の製造工程では、水が影響を与える段階がいくつもあります。


1)洗米
日本酒の製法の中で、とくに水とのかかわりが多いのは、まず「洗米」です。精米された酒米(さかまい)を蒸す前に米を洗いますが、磨き上げられた高精白米は水を多く吸い込みます。


2)浸漬
米のぬかを取り、水に浸す「浸漬(しんせき)」という工程があります。1の洗米と同じくくりにされる
ことも多いようです。どのくらいの時間を浸すかは酒蔵や銘柄によって個性が出る点で、酒米のポテンシャルを最大限引き出すために秒単位で吸水率をコントロールする必要があると言われています。


3)酒母造り
洗米し蒸された米は、一部を「麹米(こうじまい)」に、一部を「酒母(しゅぼ)」に割り当てます。この酒母造りにも水が影響します。水に含まれるミネラル分は酒母の栄養となるため軟水よりも硬水の方が適しているといわれています。
*麹米…米のでんぷんを糖に変えてくれます。
*酒母…酵母の集まりのことで糖をアルコールに変えてくれます。


4)仕込み
良質の麹米と元気な酒母に、さらに蒸し米と水を複数回に分けて加え「醪(もろみ)」を造ります。
三段仕込みは、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?ここも水の違いによって酒の味が変わるポイントです。カリウムやリン、マグネシウムなどのミネラルが発酵の必須条件。たとえば、軟水ならば優しい味わいの滑らかな酒になり、硬水であれば骨格のしっかりした濃い酒に仕上がります。


5)割水
十分に発酵が進んだら醪を絞り「清酒(せいしゅ)」と「酒粕(さけかす)」に分けます。この時の酒は「原酒(げんしゅ)」と呼ばれます。これに「割水(わりみず)」として、さらに水を加え味わいやアルコールの調整をします。割水をし必要に応じて「火入れ」「濾過」を行い、「瓶詰め」され商品化されます。銘柄によって「熟成」をしますが、熟成によってアルコールと水の分子が溶け合ってよりまろやかに楽しめます。
ここでも水が重要な役割を果たします。もっとも嫌われるのは、酒の色や味を壊してしまう水の鉄分。酒造りにかかわる仕込み水では、鉄分のない水が必要とされます。


水が綺麗な場所で日本酒がつくられる、ということを知っている人は多いと思いますが、こんなにも水が影響を及ぼすのか…と、改めてそのすごさを感じました。日本酒って、水文化と米文化の奇跡の賜物ですね。


◼️酒蔵の歴史
羽根田酒造は文禄元年(1592年)創業以来、酒造りの基本を守っている酒蔵で、炭素ろ過をしないにもかかわらず、雑味が無く、米の旨みと熟成を楽しめるのが特徴。
炭を一切使用しない無炭素ろ過の酒造りは原料処理を丁寧にした少量仕込みで、仕込み水は代々受け継がれている蔵の井戸水を使い、強い乾燥蒸気で米を蒸し、長期発酵の吟醸造りにこだわります。搾りも柔らかな味を出すために手間のかかる槽絞り、さらには旨みを逃がさないよう全量瓶燗貯蔵を徹底。
規模は小さいが歴史の古さは国内有数で、蔵元が自ら杜氏として陣頭に立ちます。昔ながらの甑(こしき)で米を蒸し濾過に炭は使わないなど、典型的な高品質少量生産手作りの蔵です。
酒名にある俵雪は、風に巻かれた粉雪が雪原を転がってできる俵型の雪の塊のことで、俵雪が出来ると豊作の吉兆といわれています。
(HPより参照)


山形県の中でも一番古い酒蔵ですが、もともとは酒造り専門であったわけではないそう。近江商人が商売の副業に始めた酒造り。米があったら造るスタイルで、米がなければ漬物や味噌を売ったり、その後戦争で一時酒造りを手放すことになりますが戦後に復活。その後、現社長が普通酒をやめ全量純米に切り替えました。
歴史の深さや、過去の大量生産の時代を経てきたからこそ、地元に向き合った酒造りにこだわり、飲んでいる人の顔が見えることを大切にしていきたいと話されていました。

◼️この時期飲んでほしい一本
羽根田酒造の代表銘柄、羽前白梅(うぜんしらうめ)の中でも、純米吟醸「ちろり」を選んでいただきました。
山形酵母という華やか系の酵母を使っています。2年熟成していてもフレッシュさが残り、喉にスッと落ちる爽やかさがあります。45度のぬる燗でお召し上がりいただくと、燗酒に慣れていない方にも米の旨味と甘味が口の中にやわらかく広がる味わいを楽しめます。羽根田氏が燗酒で初めて美味しいと感じたお酒ということもあり、まだ自分に合った日本酒に出逢えていない方にもおすすめ。
この時期は、山菜の天ぷらや淡白な白身魚、サクラマスやタイと合わせるのがおすすめ。意外なところでは、ポテトコロッケなどの揚げ物と合わせると、油をスッと落としてくれるそうでお酒も食事も進みそうです。
羽根田さんのお友達には熊や鴨などジビエの猟師もいるそうで、以前「熊に合うお酒を」というリ
クエストに合わせたお酒も教えていただきました。羽前白梅・純米吟醸「山廃原酒」の数年寝かせ
ていたものを合わせたそうです。この山廃仕込みのお酒は燗酒玄人さんであれば60度まで上げても、燗酒の魅力をもっとお楽しみいただけるそうです。(小林は個人的にすごく気になっています…!)

◼️酒蔵のバトン
このコラムでは、日本全国の酒蔵をつないで酒蔵がおすすめする酒蔵をご紹介してまいります。
次回、このバトンを受け取ってくださるのは、福岡県久留米市にある旭菊酒造様。九州と聞くと焼酎を思い浮かべる方が多いと思いますが(小林は焼酎も好きですよ!)、福岡県は日本酒の蔵元57蔵、国内5位を誇る全国有数の日本酒どころ。次回の取材も楽しみです!

〈インタビューご協力〉
羽根田酒造株式会社 羽根田成矩氏
山形県鶴岡市大山2-1-15
http://hanedasyuzo.jp

[文・取材:小林舞依]