酒蔵インタビューVol.13 愛知県・関谷醸造 蔵元 7代目 関谷健氏
日本酒コラム担当、日本酒好きの小林舞依です。
今回で日本酒コラムは13投稿目となります。このコラムでは、日本全国にある1,400以上の酒蔵にバトンを渡す、酒蔵がおすすめする酒蔵のご紹介からできております。
今回お話をうかがったのは、愛知県にある「関谷醸造」7代目蔵元の関谷健(せきやたけし)氏です。
関谷氏をご紹介いただいたのは、福島県にある仁井田本家18代目の仁井田穏彦氏です。「農!と言える酒蔵の会」創業メンバーというご縁でお繋ぎいただきました。
◼️酒造りはエンターテインメント
「お酒を楽しんでいただきたい。飲むシーンも、蔵見学でも、せっかく時間を使ってくださるのであれば楽しい時間にしていただきたいんです」と関谷氏は話します。
名古屋に2店舗レストランを直営している関谷酒造。その日入った食材を使った料理と、酒の飲み方もお店から提案してもらえる、造り手のこだわりを感じられるのが特徴です。
「日本酒を飲んだ際に『水みたいにおいしい』と言われる酒よりも、しっかりと味を引き出して造ろうと考えています」
いいお米をつくること、しっかり削ること、しっかりと溶かすこと。一つ一つの作業を丁寧に行うのは当たり前。「和釀良酒(わじょうりょうしゅ)」に含まれる、「和は良酒を醸す」蔵人のチームワークが良い酒を造るという意味と、「良酒は和を醸す」良い酒を囲みながら仲間や友と語り合うことで、そこに和が生まれるという考えを大切にした酒造りの真髄を伺いました。
◼️他業種を経て、蔵へ
関谷氏は東京農業大学在学中、酒米の醸造適性について研究していました。同条件で醸造しても酒米の違いによって味も香りも大きく異なる、今となっては当たり前に思いますが、こうした研究を通してさらに酒造りに対する興味が湧いたと話します。
1994年卒業後は静岡県の肥料メーカーに就職し農業の現場を経験。その後、酒米の王者と呼ばれる「山田錦」生産量トップの兵庫県で農業総合試験場にて酒米の研修を受けさらに知見を高めます。岐阜県の酒類卸業で流通の現場を経て、1998年に関谷醸造入社。
元治元年(1864年)創業6代目、父・関谷徹氏(現会長)の後を継ぎ、2010年蔵元に就任しました。3人兄弟の長男である関谷氏ですが、いずれは自分が後を継ぐと考えながら、学生時代から酒造りの現場を手伝っていました。
◼️ホームページ掲載の約半分は撮影した写真
就職した静岡県は会社毎にサッカー部があるほどサッカーが人気。社会人になって同僚から誘われて始めたサッカーが、現在では地元の子どもたちに教えるコーチを務めるまでに。学生時代にハンドボール部だった経験もあり、さらにスキーも得意というスポーツマンの関谷氏。モータースポーツを見るのも好きで、趣味のカメラで撮った写真がSNSを賑わせています。ホームページに掲載されている画像も関谷氏が撮影したものが使われています。
◼️酒造りと米づくりの間で
冒頭にも登場した「農!と言える酒蔵の会」とは、日本酒の原料となる酒米の栽培を自社で行う清酒メーカーが集まってできた団体です。2019年、岡山県にある丸本酒造が立案者となり始まりました。
全量自社栽培を推奨する会ではなく、日本酒業界のさらなる発展のために、技術や文化など様々な面で農業と醸造と消費者をつなげていく必要性を発信しています。各社が個々で活動するだけでなく、経験や技術を事実に基づいてお伝えしつつ、各組織に連携を促していくことを目的としています。
2022年9月より「Bar農!Farming & Brewing 2022」がオープン。「農!と言える酒蔵の会」22蔵の日本酒が楽しめるとあって連日大盛況。
古より日本酒の酒蔵が大切にしてきた「数百年にわたる持続性」「自然との調和」 「地域文化の重視」「地域経済への貢献」など、“サステナビリティ”や“エシカル”を共通言語に、日本酒の価値を蔵元自ら語る、人気イベントとなりました。
オンラインショップは11月30日まで。
◼️専用酒器で飲みたい「蓬莱泉・摩訶®︎」
関谷氏のおすすめの一本は、代表銘柄「蓬莱泉」の中でも純米大吟醸「摩訶(まか)」創業150年の節目に造られた特別な酒です。原料米に自社で栽培した酒造好適米「夢山水」を使用し、愛知県奥三河の風土にはぐくまれた、米の旨味を丁寧に引き出した一本。
飲み方は、10〜15度程度の冷やがおすすめ。合わせる料理よりも、摩訶専用酒器でいただいてください。この酒器は、岐阜県土岐市出身の陶芸家「山田晋一朗」様の作品で、摩訶に合う酒器を作ってほしいと関谷氏自らが依頼して作ってもらったもの。公式ECサイトで購入もできます。
グラスではRIEDEL社のヴィノムシリーズ「オークド・シャルドネ」という丸みのあるワイングラスが合うそうです。
◼️11月発売「しぼりたて」
特別純米しぼりたては、しぼりたて独特のフレッシュ感と軽快で純米ならではのコクが楽しめます。
吟醸しぼりたては、しぼりたて独特のフレッシュ感とキレの良さが楽しめます。
どちらも自社栽培の「夢山水」の新米を使用。
細長い一献杯(いっこんはい)で、フレッシュさや若いお酒独特の苦渋も楽しめる、さっと口に入る酒器がおすすめです。
◼️取材後記
いち消費者として見ていると、農業を始める若者も増えているような傾向も感じていますが、農家の高齢化と廃業数は伸びていく一方というお話も伺いました。
また、江戸時代までさかのぼると、余ったお米を使って醸造業を始めた酒蔵が多かった中で、戦後に農地開放で農地を全て取り上げられた経緯を考えると、酒蔵が原材料となる米を作っていくという点は戦前の起源に戻っていくとも考えられます。
SDGs、エシカルといった環境に配慮したものや、造り手がわかるものが求められていく時代、さらにこうした取り組みが日本酒ファンを加速していくと感じました。
このコラムでは、日本全国の酒蔵をつないで酒蔵がおすすめする酒蔵をご紹介してまいります。
次回、このバトンを受け取ってくださるのは、静岡県の「開運」株式会社土井酒造場。次回も楽しみです!
〈インタビューご協力〉
関谷醸造株式会社
7代目蔵元 関谷健
愛知県北設楽郡設楽町田口字町浦22番地
https://www.houraisen.co.jp/ja/
取材:
FOOD GROOVE JAPAN
日本酒コラム担当 小林舞依