第6回 在来種の会レポート:「京野菜と伝統豆」──五感で味わう、地域の知恵と歴史

2025年4月12日、東京・日本橋の「米と魚 さかなさま 日本橋茅場町店」にて、第6回「在来種の会」が開催されました。今回のテーマは、「京野菜と伝統豆」。伝統野菜の文化や背景に学び、実際に味わう──そんな贅沢な時間が3時間にわたって繰り広げられました。

案内人は、野菜未來株式会社の塩田勝良さん。青果卸業の現場で働く一方、伝統野菜の普及や教育にも力を注ぐ“野菜の語り部”です。

京野菜─ 手間ひまかけて育てられた”箱入り娘”たち

伝統野菜というと真っ先に思いつく「京野菜」ですが、実は伝統野菜全体の明確な定義はないそうです。基準は各都道府県によって決まっていますが、京都の場合「伝統野菜」「京のブランド産品」など幾つかの定義があり、それらをまとめて通称”京野菜”と呼ばれています。

そのため、平安時代から続く野菜もあれば比較的新しい品種もあり、例えば伏見甘長唐辛子は江戸時代初期から栽培されていましたが、万願寺とうがらしは昭和初期に伏見甘長唐辛子と海外品種のカリフォルニアワンダーが自然交配して生まれた比較的新しい品種だそうです。全国からおいしいものが集まった都ならではの文化ですね。

壬生地方で生まれた「壬生菜」は1800年代に水菜が突然変異して生まれたもの。さらに平安時代中期から栽培されている京水菜も元は大株で漬物用に利用されていましたが時代に合わせて品種改良され、現在登録されている品種は家庭でも使いやすい小さな株になっています。

「京都は昔から広い農地を確保することが難しかった。だから品種改良したり、手間ひまをかけて特別な野菜を作り、ブランド化して高単価で売るという戦略が取られてきました。」

例えば、京筍。春に親竹を厳選して間引き、土をふかふかにするために藁をかけ、1年かけて最高の筍をとるための土壌を作ります。特に、穂先が地上に出る前に掘り出す最高級品の「白子」は、夕方に目印をつけて、真っ暗な明け方に掘り出すという徹底ぶりです。京都の山科には筍専門の市場があり、白子は奥の日陰でひっそりと売られています。

現存する最古の京野菜である「九条ネギ」は平安時代、711年に伏見稲荷大社が建立された頃に浪速の国(大阪)から京都に移植され栽培が始まったとされています。弘法大師が東寺の近くで大蛇に追われた時に、九条ネギの畑に隠れて難を逃れたという言い伝えがあり、毎月21日の弘法市にはネギ畑に入らず、食べてもいけないと言われているそうです。

ネギを干している様子

盆地である京都の暑い夏しのぐため、夏になると一度ねぎを引っこ抜いて陰干しし、秋にまた植え直します。葉の内側が柔らかくぬめりがあるのが特徴で、冬の底冷えの季節にぐんと甘味が増します。

在来種豆──風土が育んだ“味の個性派”たち

後半は、在来種の会主催で、FGJきっての豆好きである田中陽子共同代表による豆レクチャー。
今回のために築地場外市場の豆問屋で直接仕入れ、東北地方や北海道を中心に8種類の伝統豆が集まりました。

くり豆…黒い地色と二つのくぼみが特徴のいんげん系の豆で、煮ると栗のようにホクホクした食感と深いコクが楽しめる。

馬のかみしめ…山形県長井市でしか栽培されない幻の枝豆で、噛むほどに旨みが増す濃厚な味わいが特徴。

秘伝豆…香りと甘みが強く青臭さがない、秋に短期間しか収穫できない希少な東北産の青大豆。

黒千石…通常の黒豆より小粒で栄養価が非常に高く、一度絶滅したが50粒から奇跡的に復活した北海道の伝統豆。

黒平豆…甘みが強くもっちりとした食感が特徴の平たい黒豆で、岩手県の在来種として知られる。

パンダ豆…白と黒の斑模様が特徴で、ホクホクとしたあっさり味が楽しめる北海道の希少なインゲン豆。

くるみ豆…山形県で受け継がれてきた品種改良されていない「地大豆」。脂肪分が高く、生でも食べられる。

紅大豆…鮮やかな赤色と濃い味わいが魅力。平成初期まで自家用にひっそりと育てられていたが、あるおばあちゃんが料理コンテストで出品したことがきっかけで復活。

(参考:三栄商会ホームページ)

在来種野菜を世界の料理で味わう

今回も、在来野菜と豆を活かしたオリジナルコースが用意されました。

前菜

パンダ豆の和風マリネ、秘伝豆入り五目豆、馬のかみしめのスープ、伏見甘長の揚げ、鯛の九条ネギ包み マスカルポーネソース

お料理

馬のかみしめのフェイジョアーダ(ブラジル風豆煮込み)、厚切りベーコン、伏見甘長
豆の味が濃くておいしい!! 伏見甘長は見た目に反して辛くなく、フルーティーです

くるみ豆のチリコンカン、たらの唐揚げオレガノ風味。栄養満点な豆の煮込みは、中南米でも労働者の食べ物。力をつけるためにモリモリ食べられていたそう。

 

味噌ポークシチュー、京水菜のグラタンと京筍のグリル添え

 

くり豆の赤飯風、紅大豆の納豆、くるみ豆の呉汁

 

デザート

黒平豆の冷たいぜんざい

 

世界各国の日本大使館で勤務した経験のある土屋料理長により、世界の豆料理と和食が融合した、とても面白いお料理の数々でした!参加者は「豆のイメージが変わった。もっと豆を食べてみたい」「普段は手に取れない京野菜がたくさん食べられて勉強になった」と大満足のようでした。

在来種を守るということは、単に“残す”のではなく、現代の食卓に合った形で“活かす”こと。今回の多彩な料理を通じて在来種、伝統野菜の新たな可能性を実感しました。

 

次回の在来種の会は5月31日「加賀野菜とじゅんさい」。都文化とは異なる城下町、加賀の伝統野菜と、希少な初夏の涼味、じゅんさいを味わいます。お楽しみに!

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