酒蔵インタビュー:長崎県・酒蔵吉田屋5代目 吉田嘉一郎
SAKE STUDY:日本酒に使われる酵母の種類
日本酒コラム担当、日本酒好きの小林舞依です。今回で日本酒コラムは9投稿目となります。このコラムでは、日本全国にある1,400以上の酒蔵にバトンを渡す、酒蔵がおすすめする酒蔵のご紹介からできております。
今回お話をうかがったのは、長崎県南島原市にある酒蔵「吉田屋」5代目の吉田嘉一郎(よしだかいちろう)氏です。YouTubeにも力を入れる若き蔵人、吉田氏の酒造りへのこだわりを伺いました。
吉田氏をご紹介いただいたのは、同じ長崎県の森酒造場・杜氏の森雄太郎氏です。
森氏も若き杜氏として活躍中ですが、さらに若い方が地元に戻ってきたということでご縁を繋いでいただきました。
前回記事:Vol.8「梅雨時期に楽しみたい、生酛造りにこだわった飛鸞・青天」長崎県・森酒造場
◼️飲んでもらう人の層を広げたい
吉田氏は、東京農大の短期大学部醸造学科を卒業後、茨城県の来福酒造で3年経験を積んだのち、実家である吉田屋に昨年2021年7月戻ります。
もともと絵を描くことが好きだったと話す吉田氏は、将来はイラストレーターなどの仕事も視野に入れていたそうですが、酒造りをしながらでもこうした仕事ができると考え、ご実家の蔵を継ぐことを決意。
吉田氏が造った「BANG(バン)」は20〜30代の日本酒に馴染みがない方にも飲んでもらいたいと想いを込めた一本。
この夏のおすすめの飲み方は、冷やして飲むことはもちろん、氷を入れてロックでも楽しんで。BBQなどのイベントでも気軽に飲んでほしいと話します。この独創的なラベルは吉田氏自身のデザインです。
名前の由来は、吉田屋の既存の銘柄である「萬勝(ばんしょう)」と言う名前から取りました。また、「酒蔵業界にバン!と音を立てて名前を知れ渡らせたい」と言う意味で、スペルは英語圏の発砲音などのオノマトペでよく見るBANGとつけました。
◼️大学で学んだ「花酵母(はなこうぼ)」
この「BANG」は、吉田屋の新ブランドとして、吉田氏が修行先から戻ってきて初めて造った日本酒です。地元産にこだわり、長崎県産の山田錦を使用しているのも特徴のひとつ。大学で学んだことや、修行先の来福酒造様での経験をもとに使う「花酵母」を厳選し、今まで吉田屋で使用してこなかった「オシロイバナの花酵母」を使用。オシロイバナの花酵母は、フルーティーで華やかな香りと、優しくやわらかな味わいを特徴としています。
オシロイバナの開花時期は6月〜10月ですが、夕方から翌朝まで咲き次々新しい花が咲くそうです。1日花とも呼ばれるオシロイバナを使った「BANG」は、まさに新しさや生命力を感じます。
日本酒を造る上で欠かせないアルコールを作ってくれる菌、それが酵母です。
「花酵母」は、東京農大の花酵母研究会に加盟している蔵元のみが使える酵母で、その花酵母の種類は20〜30種類はあるといいます。吉田屋では、4代目の頃から東京農業大学で研究している花酵母を使用しています。
一般に、酒造りに広く使用されている酵母は、酒の醪(もろみ)から分離されてきました。
東京農業大学短期大学部醸造学科酒類学研究室では、無限の可能性を秘めた自然界に着目し、個性豊かで特徴ある酵母を分離することを試みました。その結果、自然界に咲く花々から様々な香味を醸し出す優良酵母を分離することに成功しました。まさに、花からの贈り物というべき天然の酵母です。
(東京農大花酵母研究会HPより参照)http://www.hanakoubo.jp/
この夏発売され、大人気の「ひまわり酵母のお酒」は夏の代名詞である向日葵を使った純米吟醸酒。フレッシュな果実を思わせるような香りです。爽やかで清涼感のあるタイプです。
向日葵には、敬慕、あなたは素晴らしいという花言葉を持ちます。花言葉で日本酒を選ぶ、というのも面白いですね。
◼️吉田酒造の特徴「はねぎ絞り」
「撥ね木」と呼ばれる約8mもの巨大な木を用い、てこの原理で圧搾する製法が「はねぎ搾り」です。
吉田屋は大正6年に創業し、元来このはねぎ搾りでお酒を製造していました。
しかしながら、並大抵ではない労力と低効率のため、製造方法はやがて機械化。現蔵元、4代目・吉田嘉明(よしだよしあき)氏が蔵へ戻った際には機械製造が主流になり、地元向けの普通酒のみ扱い、お酒をつくるたびに売れ残っている状態だったそうです。
「独自性のある日本酒をつくって、地元だけでなく圏外の方に南島原ブランドのお酒を飲んで欲しい」という思いがあった蔵元は、吉田屋に残っていたはねぎの装置に着目氏、このはねぎ搾りを復刻しました。
日本酒の伝統製法はねぎ搾りは、吉田屋を含め全国で6ヶ所しか採用していません。
吉田屋では、あえて手間暇をかけてじっくり搾ることで、雑味のないふくよかな味わいにこだわっています。
少し酒造りの様子をご紹介しましょう。
仕込んだ醪を酒袋に入れ、槽(ふね)と呼ばれる枠の中に敷き並べます。槽は大きくて深いため、二人がかりで慎重に並べていきます。
蓋をして、酒袋全体に均等に重さがかかるように、枕木と呼ばれる重りの木を積んでいきます。マニュアルはなく、感覚を頼りに微調整してバランスをとります。
阿弥陀車で撥ね木を下ろしていきます。その日の湿度・温度によって醪の固さや装置の調子が変化するため、絶妙なバランスが必要です。てこの原理を利用して、じっくりと時間をかけて搾っていきます。
1つ16kgの重りを最大60個、撥ね木に吊るしていきます。重さが軽すぎると搾れず、重すぎると酒袋が破れてしまうため、長年の経験と勘だけが頼りです。
撥ね木が最大まで下がるのを待ちますが、醪の溶け具合により時間は変動します。
大量生産ができないため、少ない製造数ですが、だからこそ挑戦できることがあると吉田氏は話します。
「はねぎ搾り」は日本酒ビギナーにもおすすめ。純米酒でアルコール度数14%ですが、香りもひかえめ。こちらも冷やで涼みながら、キャンプやBBQで飲んでみていただきたい一本です。
◼️酒蔵のバトン
このコラムでは、日本全国の酒蔵をつないで酒蔵がおすすめする酒蔵をご紹介してまいります。
次回、このバトンを受け取ってくださるのは、茨城県の酒蔵、青木酒造株式会社です。
次回もますます楽しみです!
〈インタビューご協力〉
合資会社吉田屋
はねぎ搾りの酒蔵 吉田屋
5代目 吉田嘉一郎
〒859-2202 長崎県南島原市有家町山川785
取材:
FOOD GROOVE JAPAN
日本酒コラム担当 小林舞依